ムウアロハ 手仕事の日々

オリジナルボディワーク。からだとこころを施す手仕事。

旅の理由〜自然界のアンブレラ・猛禽類〜

知床で出会った本

衝撃でした

1冊を私なりにまとめてみました(長いです)

 

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📗野生の猛禽を診る
齋藤慶輔
北海道新聞社 1670円
2014年

 

■釧路野生生物保護センター内

猛禽類医学研究所

http://www.irbj.net/index.html

 

 

■いのちのバトンをつなぐ
https://youtu.be/Xawz7E3L1ok

 


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■『はじめに』
野生動物の真髄と向き合うためには、彼らの生き方を尊重し、対等の目線で接することが大切。

『可哀想だから助けてあげる』といった慈善活動としての救護や
『わし君』『フクロウちゃん』などと動物を擬人化して接することは野生動物を守ることにはつながらない。

 

取材で『あなたの役割は?』と問われ、私は白血球でありたいと答えた。


白血球にはいくつもの種類があり、病気や怪我に見舞われると、その時々の原因や病状に応じて専門的な役割を持つ白血球が増えて病原体などに対抗する。

 

現在の地球は様々な人間活動による影響を強く受け、生態系の健全性が損なわれつつある。

 

近年、そんな現状に反応するように、それぞれの得意分野を持った人間が、自然環境を治療するという共通の目標を見据えて動き出そうとしている。

 

怪我や病気の動物の保護にとどまらず、事故の再発防止を目指す事業体、環境管理を行う行政、さらには現状を世の中に広く正しく伝えようとするマスメディアなど、
それぞれがプロとして互いに尊重し合い、連携するようになってきたのです。

 

この行為はまさに白血球の姿そのものであり、地球を生命体とするガイア理論を彷彿とさせます。

 

私は獣医師として、病んだ地球の白血球であり続けたいと思っています。

 


活動を始めて20年という節目に、野の者たちと一緒に刻んできた道のりを振り返り、自戒の念も込めて明らかにすることで私の足跡をたどってくれている多くの後進諸君が、ささやかな道標として参考にしてくれることを期待します。

 


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なぜ猛禽類を守るのか?
環境変化の影響を真っ先に受けるのは、生態系の頂点に位置する、食物連鎖の上位に位置する動物たちです。(人間も含む)

 

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猛禽類は、広い範囲での生態系・生物多様性を保全する『傘』の役割を併せ持つことから、『アンブレラ種』と呼ばれている。

 

さらに猛禽類は生態系全体のバランスを保つうえで重要な役割を担っているので石橋などの要石、『キーストーン種』とも言われている。

 

重要なのににとても数が少ない。


環境破壊や密猟で多くの大型猛禽類が激減した。

1羽を助けるとその下にある多くの動物を助けることになる。

 

オオワシは世界の総生息数5000羽のうち約半数が北海道で越冬する


2009年、道路に出てきたカエルを追って車にはねられ、重大な脳障害を負ったが一命を取り留めたオスのシマフクロウと、事故で羽を複雑骨折したメスのシマフクロウの間に卵が産まれたことは本当に嬉しかった。(残念ながら無精卵だったが)


そして試行錯誤を繰り返し、2014年施設の巣箱内で自然繁殖としてはセンター初となるシマフクロウのヒナが一羽誕生した。

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シマフクロウの個体群の維持管理には道内の釧路市動物園、円山動物園、旭山動物園も賛同協力してくれている。

 

そしてシマフクロウから始まった活動はより多くの絶滅の危機にひんした猛禽類の救護をより専門的に推し進めるために、ここ猛禽類医学研究所が環境省から事業を委託された。

 

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自然界からのルールに逆らわない救護活動は命のバトンリレーにとどまらず、発見者や搬送者など、関わったすべての人の思いもつなぐリレーです。

 

怪我や病気の野生動物たちは、生息している環境の健康状態を、自らが身を挺してこちらに伝えてくれる『自然界からのメッセンジャー』です。

 

弱肉強食のルールを変えたり、可愛い動物は保護して蛇など苦手な動物は助けないというのは違う。

 

交通事故、窓ガラス衝突、野犬や猫など外来動物による怪我、環境汚染物質(鉛など)による中毒など、人間活動が関与する(自然界のルールによる原因ではない)怪我や病気が多発している現状。

大部分が人為的な原因。

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人が野生動物の健全な生活を蝕んでいることは紛れもない事実なのです。

 

 

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日本列島は太平洋上に南北長く連なっているので多くの渡り鳥がこの列島を『移動の経路』として利用する。

 

ロシア北方領土や韓国に出向いて、猛禽類の治療の研修を行うと、みんな国は違えど野生動物や猛禽類を助けたいという強い想いは同じで、早朝から深夜まで熱心に学んでくれました。

 


■光
カメラマンのスタロボは夜行性の猛禽類の瞳孔を全開させ、一瞬盲目にさせ、木や障害物に激突させてしまう

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■網
漁業での大網での漁によりアホウドリやウミガラスなどが網で捕らえられそのまま港まで運ばれ、骨折や裂傷のまんま放置され死亡するケースも多い

豊かな海を生きる糧としている人間と海鳥たち
共生に向けて努力して欲しいとたくさんの鳥の死骸が伝えている

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■深刻な鉛中毒
猛禽類の鉛中毒はどの国でも酷い。
鹿の駆除に鉛弾を使う。
鉛弾で殺した鹿は血流に乗って体内が鉛だらけになる。
それを猛禽類が食べると一瞬で重症の鉛中毒になってしまう。

 

撃たれた鹿が森の奥へ逃げてそのまま死にそれを食べる鷲や鷹。

 

一番の原因は漁師が仕留めた鹿をそのまま放置すること。


鉛弾の破片が数多く残る被弾部は筋肉や内臓が露出していて鳥類にとっては食べやすい。

 

人里で助けられるケースはまれで、ほとんどが苦しんだまま森で死亡する

 

特に繁殖年齢に達した成鳥が数多く犠牲になっているので単に一羽の死亡ではなく、結果的にその個体が生み出すはずだった次世代の命を消し、猛禽類の減少に影響する

 

鉛の毒性は非常に高く、特に鳥類ではその影響が深刻。
(赤血球の破壊、造血機能の障害、肝臓腎臓の機能障害、中枢神経や末梢神経の障害など。
衰弱死するか、重度の運動障害により餓死もしくは凍死)

 

鉛の解毒に使われる鉛キレート剤は副作用も大きく長期間の治療が必要になる。

 

鉛の弾で殺された動物の未回収死体を食べて鉛中毒で苦しむのは何も猛禽類だけではなく、水鳥やエゾライチョウ、キツネ、キジや山鳥も。

 

そしてそれらが中毒で死に、それを食べた猛禽類がまた中毒になる。


鉛は自然界の循環や供給にブレーキをかけてしまうのです。

 

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鉛中毒で苦しむ
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鉛中毒死
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重度の鉛中毒
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全国規模で全ての狩猟から鉛弾を撤廃し、無毒の銅弾などに移行すること以外に根本的な対策はない。

 

鉛弾の流通や所有に何も制限がされていないことがこの問題を長引かせている。

 

鉛弾に汚染された肉がジビエ料理を介して人にも健康被害を及ぼす可能性も大きい。

 


★著者の齋藤先生を中心とした北海道の各分野のスペシャリストたちが結集し、20年以上努力した結果、2021年度に環境省は鳥獣保護法の基本方針を改定し、『非鉛弾への切り替えを目指す』とようやく表明した。
20年かかった。

しかし今も規制は北海道のみ。

本土からやってくる狩猟者は安い鉛弾を使う。
それでもやっと一歩前進した。

 


野生生物全般に大量死をもたらす危険のある鉛中毒。
これは人間が責任をもって排除すべきである。

 

 


■交通事故など
最も多いのは車や電車にひかれる交通事故。
あとは電柱に止まっての感電死。
そして風力水力原子力による発電に関わる事故死。

 

電気を使い、道路を使っている我々の日常を棚に上げて野生動物や自然保護について論じるつもりはさらさらない。

 

生活を営む上で自然環境に与えてしまっている負荷を謙虚に受け止め、大昔からそこで元々暮らしてきた野生動物との共生を目指すしかない。


小さなことでも今何が出来るかを真剣に考えることが大切だと思う。

 

企業や団体と動物や自然保護を盾にして反目し合うのではなく、相手の立場や能力を尊重し、同じ目標に向かう仲間として位置づけることが秘訣だと感じている。

 

 

 

猛禽類の感電事故は電力会社にとっても負担なのです。
こちら側の立場だけ企業に主張して「有効な対策を講じて欲しい」だの「電線を全て埋没して欲しい」だの言っても先へ進まない。
一緒に対策を考える。

 

 

保護しても怪我や脳の障害が酷く、野生に戻せない猛禽類たちには、うちの施設で送電設備の実験や開発に協力してもらっている。

 

これにより安全な器具が設置された箇所は数百箇所、電柱の数は千数百個に及んでいる。
電力会社もかなり努力してくれた。


野生動物との軋轢が生じている人間活動の分野はとても広い。

 

文明が進めば進むほど野生動物の置かれている環境は破壊する。

 

それはエネルギー開発や道路・交通事業以外にも、林業や農業、さらには観光やレジャーなどあまりにも多岐に渡っている。

 


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列車事故の多くは、電車に轢かれた鹿を食べている最中に起こることが多い。

 

鹿をひいたら線路脇によけるだけでも防げるのだが、それは時間的にもなかなか難しい。

 

北海道の電車は時々耳をつんざく大きな警笛を鳴らして鹿やキツネを追い出す。

 

シマフクロウは道路を渡る蛙を捕食中に車と衝突することが多い。

 

そのほとんどが顔面を大きく損傷しており、衝突の直前まで逃げる体制をとっていなかったことが伺える。

車のヘッドライトで瞳孔が開き見えなくなるからだ。

 


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■感電事故

高い木の上で獲物を狙う猛禽類
送電線に止まることも多く、感電死は鉛中毒に次いで多い

オオワシが最も多い。

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北海道電力に粘り強く交渉し、感電死した猛禽類も実際に見てもらうと、対策を講じる努力をしてくださっている

 

猛禽類が止まれない、また他に止まるものを、野生に帰れないワシや鷹に検証協力してもらい、さすがは日本の技術者、様々な素晴らしい案が出て少しずつではあるが、減少してきている。

しかしこれは釧路の一部の地域のみ。

 

全国どころか、北海道全道もまだまだで、感電死する猛禽類は後を絶たない

 


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■風力発電の羽根にぶつかってのバードストライク


風力発電が建つところは風の強い場所
気流も荒れて、渡りをするワシや鷹が風で巻き込まれ死ぬ事故がここ最近かなり増えてきた。

 

原発事故で新たな再生エネルギーが見直され、山を切り崩してのソーラー発電や風力発電が台頭してきてさらに深刻になった。

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風力発電の羽根の長さは40m

それが時速200kmで回る

気流を利用してゆったり飛ぶ鳥などは一瞬で巻き込まれて真っ二つf:id:moomoon6355:20221002060301j:image

 

風力発電の自然に優しいイメージは社会に広く浸透している

でも野生動物への負荷はあまり知られていない。

 

 

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■ロシアとの石油開発サハリン1〜9計画

猛禽類の一大繁殖地であるサハリン

 

万一石油パイプラインが破損した場合、石油は瞬く間に川の浅瀬や湖底まで汚染し、そこに暮らす野生生物、特に猛禽類を根絶してしまうだろう。

 

自然遺産と石油天然ガス資源。

どうすれば両立させられるのか国と力を合わせてこれから考えなくてはならない

 

※サハリン計画はウクライナ侵攻で現在暗礁に乗り上げている

 


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センターに運び込まれた猛禽類・鳥類は生死を問わず全て特別な機械でインフルエンザウイルスとウエストナイルウイルスの検査を行ってから治療室に運ばれる。

 

鳥インフルエンザに感染して死亡したオオハクチョウや鴨などを食べたオオワシの死亡や、猛禽類が鳥インフルエンザにかかる可能性もある。

それは絶滅につながる恐れもあるのだ。

 

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治療を終えた彼らを野生に返すことを見据えて長期間ケージの中で過ごさせることは、かえって病状を悪化させ、多大な精神的ストレスを与えてしまう。

 

「治す」ことは「返す」こと。

 

治癒能力を引き出すために意図的に治療の手を緩めたり、早めにトレーニングに移行したり、、、

 

野生復帰を見据えた関わり方を忘れないことがとても重要なのです。

 

大きな後遺症が残っているにもかかわらず、そのままたくましく生きていくのには本当に感動する。

 

片足のシギが何年も同じ干潟に戻ってきたり


翼をひどく骨折したクマタカが一ヵ月以上も動けず同じ枝に止まり続けた末に、自力で治って再び飛ぶ力を取り戻したのを観察した時は驚いた。

 

片目の視力を失くしたシマフクロウが自然界で立派に繁殖しているのにも遭遇した。

 

例え後遺症が残ってしまっても可能な限り野生に返し、その生きる力に賭けてみたいと思っている。


なので100%自然界では無理な子以外、長くはここへ置いておかない。

 


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この20年余り、傷ついた野生動物と毎日向き合う生活を送り、彼らを治療する中で強く感じるのは、人間による影響が彼らの生活の奥深くまで入り込み、知らない間に彼らを傷つけ、生活の場まで奪い、その先には絶滅させてしまうという事実です。


猛禽類の死ぬほど痛くてもこちらを威嚇する力には感嘆する。

「私の手の中にたどり着いた野生動物たちは、一体私に何を訴えかけているのだろう。何をして欲しいのだろう。」


生態系を構成する一員である彼らが、これほどまでに傷つき苦しむ自然界とは一体どうなっているのだろう。


傷ついた野生動物こそが病んだ自然環境を映す鏡。
すなわち自然界からのメッセンジャーなのだと気付いたのです。

 

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豊かな暮らしを享受する私たち人間社会がもたらす軋轢への補償として、彼らの住む環境を治療する義務があり、野生動物の救護活動もその一つとして位置づけている。


傷ついた彼らの言葉を人間語に訳し、人間界のしかるべき場所に伝えることも、治療に加えて私が行うべきことなのではないかと思う。

 

彼らが安心して生きられる環境を再び取り戻せるよう、野生動物側の「弁護士」として人間界に働きかけることも私に課せられた責務だと思っている。

 


「何が出来るか」ではなく「何をやるか」


小さな半歩を踏み出す人間でありたいと思う。

彼らといつまでもこの地球上で暮らしていきたい。

 


十数年前、オオワシの調査で訪れたロシアのサハリンで、今では心の支えにしている言葉に出会った

 

当時終わりの見えない鉛中毒やサハリン開発問題の解決に奔走しており心身ともに追い込まれていた


川の氾濫や通行止めなどなかなか目的地に到達できないので現地の人に
「ロシアは大変だね。思った通りに行かないね」と語りかけると、彼はこう言った

「決まった道なんてないさ。ただ目的地があるだけだよ」

 

その言葉は深く突き刺ささった。
目標さえ見失わなければ道は必ず開けるんだ!

 

彼の言葉は私の座右の銘になった

「決まった道なんてないさ。ただ目的地があるだけだよ」

 


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私はこの施設に心ばかりの支援をさせてもらっている。

今回直接そこへ行くために釧路旅を計画しました。